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大阪高等裁判所 昭和42年(行タ)2号 決定 1967年7月05日

大阪市生野区東桃谷町二丁目五番地

申立人(控訴人)

中島忠久

右同所

被申立人

中島忠見

被控訴人

右代表者法務大臣

田中伊三次

右指定代理人

川井重男

矢野留行

坂上竜二

西村和典

本野昌樹

嵯峨時重

右控訴人被控訴人間の昭和四一年(行コ)第一〇三号贈与税債務不存在確認請求控訴事件につき控訴人より被申立人に対し訴訟引受の申立があつたので当裁判所は次の通り決定する。

主文

本件申立を却下する。

申立費用は申立人の負担とする。

理由

申立人は被申立人に訴訟引受を命ずる旨の決定を求めた。その理由とするところは、申立人(控訴人)の昭和二七、二八年度の各贈与税の支払義務を現在の対抗条件留保のまま申立人の実父である被申立人に於て引受たからと云うにある。その趣旨は分明でないが之を善解すれば、被申立人が申立人の贈与税支払義務を引受け控訴人たる地位を被申立人に於て承継したから民事訴訟法第七四条により訴訟引受を求めているものと解せられる。

仍て、判断すると、本件訴訟は具体的に金銭債務化した贈与税債務の不存在確認を求める公法上の法律関係に関する訴訟であり、このような所謂当事者訴訟の原告適格は民事訴訟法により定められるから、民事訴訟法に定める訴訟承継に関する規定の適用があるものと解せられる。他方租税債務はその内容が契約により定められるものではなく、法規又は行政処分により決せられ、且之が履行に関しては特別の強制執行手続が存在していることは私法上の債務とは異るところであるが、個別性を問題とする人的役務を内容とするものでなく、その本質は金銭債務であることには変りがないから移転性を有し、租税債務の承継は許されるものと解せられ、従つて、租税債務の引受も亦可能であると解するのが相当である。唯、租税債務はそれを履行すべき義務即ち納税義務を当然に予定するものであるから、その承継は債権者である国又は公共団体にとつて、租税徴収確保の上に影響するところが大であるため、徴収確保の見地から場合によつては制限的に解せられ又特別の規定がおかれているに止るのである。

之を本件について考えると、被申立人は申立人の贈与税債務を引受けたと主張するが国に於て之が債務引受を承認したとする証拠はない。そればかりでなく元来民事訴訟法第七三条第七四条の訴訟承継の制度は訴訟物である権利又は法律関係の移転があつた場合訴訟経済上承継人をして在来の当事者に代つて訴訟を追行せしめようとする制度であるが、被申立人が引受けたとする具体的に金銭債務化した贈与税債務は申立人が、かかる債務は存在しないと主張する債務であつて、このような債務を引受けること自体無意味であり、その目的とするところは本件記録に徴するときは、従来被申立人が申立人の親権者として自ら訴訟を追行して来たところ、申立人が成年になるに及び被申立人は訴訟追行権を喪失した結果、従来通り自ら訴訟を追行するためこのような挙に出たものと認められ、訴訟物の承継があつたとすることはできないばかりか、それは専ら訴訟行為をさせることを目的とした行為と認められるから申立人の申立は却下することとし民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り決定する。

(裁判長裁判官 小野田常太郎 裁判官 松浦豊久 裁判官 青木敏行)

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